相談者のMさんは、判断能力の衰えていた父から、父の後妻にマンションが生前贈与されてしまっており、何とかこのマンションを取り返したいとのことで、弁護士のもとに相談に来ました。
具体的な事情としては、
・相談者の父(Tさん)は、後妻(Oさん)と婚姻し、Tさん名義のマンションでOさんと同居していました。
・父(Tさん)は、相談の1年前に亡くなりました。
そして、亡くなるさらに一年前(相談の2年前)、Tさん名義のマンションは、後妻(Oさん)に生前贈与されたことになっており、不動産登記もすでに後妻(Oさん)に移されていました。
・しかし、Tさん名義のマンションが生前贈与された当時、父(Tさん)は、すでに認知症が進んでおり、認知症のスクリーニング検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)において、30点満点中10点しか獲得できないような状態でした。
・Mさんとしては、後妻(Oさん)が、父(Tさん)の判断能力が衰えていることをいいことに、マンションを生前贈与してしまったのだと考えました。
Mさんは、父(Tさん)が亡くなった後、1年間程度、後妻(Oさん)との間で直接交渉して、マンションの登記を元に戻してもらえないか、交渉していました。
しかし、後妻(Oさん)からは、登記も戻さないし、お金も払うつもりはないとの回答が返ってくるばかりで、一向に交渉が進みませんでした。
そこで、Mさんは、これ以上、自分での対応は難しいと判断し、弁護士に対応を依頼しました。
この相談を受けた弁護士は、父(Tさん)から後妻(Oさん)へのマンションの生前贈与があったとされる当時の父(Tさん)には判断能力の問題があり、生前贈与が無効であるといえないか、関係資料を検討しました。
相続では、過去の多数の文書を分析する必要がある場合が多く、解決に見通しを立てるには、資料の分析能力が必要となります。
まずは、上記のとおり、そもそも、①生前贈与の当時、父(Tさん)は認知症が進んでおり、MMSEで30点満点中10点しか獲得できず、認知能力が衰えていました。
そのことを示す点数表やカルテ等も精査したところ、父(Tさん)は、贈与契約を締結するために必要な判断能力がすでになく、贈与契約が無効であると主張できる可能性がありました。
また、マンションの生前贈与がされた法的根拠として、父(Tさん)と後妻(Oさん)との間で、マンションの贈与契約書が締結されていました。
しかし、この贈与契約書を精査すると、確かに、父(Tさん)の印鑑が押されているのですが、署名については、父(Tさん)の筆跡とはかなり異なる筆跡となっていることが分かりました。
そうすると、そもそも、マンションの贈与契約書は、父(Tさん)が自ら署名捺印したものではなく、後妻(Oさん)が勝手に偽造したものであるとの疑いが強くなりました。
以上より、弁護士は、Mさんが勝てる見込みがある程度高いと判断しました。
また、すでに、Mさん自身が1年かけて後妻(Oさん)と交渉しても解決できていなかったことから、すぐに訴訟をした方がかえって解決が早いと判断しました。
そこで、弁護士は、後妻(Oさん)に対し、生前贈与は無効であって、Tさん名義のマンションが遺産に属することを確認し、かつ、後妻(Oさん)に移転した登記は抹消することを求めて、訴訟を提起しました。
この訴訟では、後妻(Oさん)は、贈与契約書の筆跡について、父(Tさん)の意思に基づいて、後妻(Oさん)が代筆したものだ、だから生前贈与は有効だ、と反論しました。
しかし、弁護士は、Mさんから聴取・収集した様々な事実や資料を基に、贈与契約書が父(Tさん)の意思に基づかないものであることを綿密に反論していきました。
その結果、訴訟の審理が進んだところで、裁判官から、マンションの生前贈与は無効との心証を持っており、後妻(Oさん)がMさんにお金を支払う条件で和解をした方がいいとの見解が示されました。
Mさんとしては、判決まで行かずとも、マンションの生前贈与が無効であったことを認めてもらえれば、それで十分でした。
その結果、Mさんとしては、裁判所での和解協議を進め、マンションについて、これが遺産に属することを確認した上で、法定相続分の金銭支払いを受けることができました。
以上のとおり、相続問題では、今回のケースのように、判断能力が衰えているにもかかわらず契約書を作らされてしまう、あるいは、印鑑を勝手に使って口座を解約する、契約書を勝手に作って偽造する、などの事態が発生する場合が散見されます。
そこでは、相続問題の解決経験、相続関係の資料の収集・分析能力、訴訟での弁護能力など、弁護士の総合力が試されることになります。
そのため、複雑な相続問題でお困りの方は、相続問題に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。