相談者のIさんは、Iさんの兄(Sさん)が、Iさん及びSさんのお父様(Tさん)の遺産である土地を独り占めして、使わせてもくれないし、なにかお金を払ってくれるわけでもないし、遺産分割にも応じてくれない、とのことで、弁護士のもとに相談に来ました。
具体的な事情としては、
・相談者の父(Tさん)は、相談からさかのぼること10年前に亡くなりました。
父(Tさん)の遺産として、今回の件で問題となる土地がありました。
・父(Tさん)の相続人は、相談者(Iさん)と、相談者の兄(Sさん)、相談者の母、相談者の妹の4人でした。
そうすると、遺産の土地について、母の相続分は2分の1、Iさん、兄(Sさん)、妹の相続分は、それぞれ6分の1となります。
・兄(Sさん)は、父(Tさん)が亡くなる直前(10年前)、父(Tさん)に無断で、遺産の土地に勝手に工場を建てて、現在まで、土地全体を独占して使用しています。
・その後、母と妹は、それぞれ、自分の相続分をすべてIさんに譲渡しました。
その結果、Iさんは、遺産の土地について、2分の1(母の分)+6分の1(妹の分)+6分の1(自分の分)=6分の5の割合の共有持分を取得したことになります。
遺産の土地について、残りの6分の1は、兄(Sさん)が共有持分を保有している状態です。
・この10年の間、兄(Sさん)は、遺産の土地に工場を建てて、独占して使用し続けています。
そして、Iさんは、兄(Sさん)との間で、遺産の土地について、遺産分割のための話し合いや、家庭裁判所での遺産分割調停もしてみましたが、兄弟の仲が悪かったこともあり、話し合いが上手くいかず、解決できませんでした。
・Iさんとしては、この10年間、遺産の土地の権利の6分の5を持っているにもかかわらず、使用することも、売却などしてお金に変えることもできなかったことになります。
そこで、Iさんは、これ以上、自分での対応は難しいと判断し、弁護士に対応を依頼しました。
Iさんは、遺産の土地の権利関係自体について、遺産分割協議や遺産分割調停が失敗して、解決できずに10年間経ってしまっています。
そこで、Iさんとしては、遺産の土地の権利関係自体をどうするかということよりも、他にお金の請求ができないかどうか、弁護士にアドバイスを求めていました。
このケースでは、兄(Sさん)が、父(Tさん)に無断で、遺産の土地に勝手に工場を建てて、現在まで、土地全体を独占して使用しています。
法律的にいえば、兄(Sさん)は、いわば他人の土地を、勝手に使用していることになります。
そこで、この相談を受けた弁護士は、兄(Sさん)に対し、遺産の土地の賃料相当額について、Iさんが共有持分を持っている6分の5の割合の金額を、不当利得(「不法な利益」というような意味の法律用語です。)として請求できることを説明しました。
また、弁護士としては、これまで、10年にもわたって話し合いや調停を行っても解決ができていなかったことから、交渉による解決はそもそも難しいと判断しました。
そこで、できるだけ早く結果を出すためには、すぐに訴訟を提起してしまった方がよいことをアドバイスしました。
そこで、弁護士は、すぐに、兄(Sさん)に対し、過去10年分にさかのぼって、遺産の土地の賃料相当額の6分の5を支払うことを求める訴訟を提起しました。
なお、過去10年間にさかのぼっての請求としたのは、当時の民法で、時効期間が10年間とされていたためです。
現在の民法では、時効期間は基本的に5年または10年となっていますので、請求できる期間が5年間に限定される場合が多いです。
訴訟では、兄(Sさん)は、父(Tさん)から遺産の土地を使用する許可をもらっていたと主張して、抵抗しました。
また、兄(Sさん)は、父(Tさん)から遺産の土地を使用する許可をもらっていたことを証明するための文書を偽造までして、裁判所に証拠を提出していました。
しかし、弁護士としては、きめ細やかな反論を繰り返し、そのような許可がなかったことを反論・立証していきました。
裁判所の判決の結果は、遺産の土地の賃料相当額の月額12万5000円×12か月×10年×6分の5(Iさんの共有持分の割合)=1250万円について、ほぼ全額を、兄(Sさん)がIさんに支払うことを命ずる、という全面勝訴判決でした。
その後、兄(Sさん)は、この判決を不服として、控訴・上告の手続きを取りました。
しかし、裁判所は、兄(Sさん)の控訴・上告を認めず、この全面勝訴判決が確定することになりました。
以上のとおり、相続に関する問題を解決するためには、遺産分割協議や遺産分割調停の手続きや、相続に関する知識だけではなく、訴訟手続きについてのスキルだったり、不動産に関する知識が必要となる場合があります。
そのため、不動産を相続してお困りの方は、相続不動産問題や、不動産訴訟手続きに精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。