相談者のSさんは、亡くなった父の預貯金を勝手に出金した姉(Iさん)がお金を払ってくれないまま、9年が経っているということで、弁護士のもとに相談に来ました。
具体的な事情としては、
ということでした。
この相談を受けた弁護士は、このケースでは、次の2つの危険が高いと判断し、Sさんに対し、迅速な対応や裁判所の手続きが求められることを説明しました。
1つ目の危険は、消滅時効の危険です。
これは、預貯金を勝手に出金されてから10年(なお、現在の法律では5年又は10年です。)が経ってしまうと、当時の法律の規定により、姉(Iさん)に対し、勝手に出金したお金の分配を請求できなくなってしまう危険がある、ということです。
2つ目の危険は、預貯金の使い込みの危険です。
これは、姉(Iさん)に、弁護士から、勝手に出金したお金の分配を請求すると、その預貯金を使われてしまったり、隠されてしまう危険がある、ということです。
そこで、Sさんは、これ以上、自分での対応は難しいと判断し、弁護士に対応を依頼しました。
そこで、弁護士は、まず、裁判所に仮差押えの申立てを行い、父(Tさん)の預貯金2000万円程度を入金した姉(Iさん)の口座について、1000万円を出金できないようにする手続きを取りました。
弁護士は、当然のことながら、姉(Iさん)に請求をする前に、この仮差押えの申立てを完了させました。
理由は、弁護士から、姉(Iさん)に対し、勝手に出金したお金の分配を請求すると、警戒した姉(Iさん)が、その預貯金を使わってしまったり、隠したりする可能性があるからです。
そのため、先に裁判所の仮差押えの手続きを完了させ、姉(Iさん)の口座からの出金を止めておく必要があるのです。
また、このケースで、相手方の預貯金に仮差押えをかけるメリットは、2つあります。
1つ目のメリットは、仮差押えにより、消滅時効の完成が猶予されるということです。
これについて、民法149条1号で、仮差押えがあると、仮差押えが終了したときから6か月を経過するまでの間は、時効は完成しないと規定されています。
参考:民法|e-Goc法令検索
2つ目のメリットは、そのままですが、仮差押えにより、姉(Iさん)が、その預貯金を使わってしまったり、隠したりする可能性がなくなるということです。
すなわち、このケースでは、①消滅時効の危険、②預貯金の使い込みの危険という上記の2つの危険に対し、仮差押えの手続きをとることで、一石二鳥に手当てができたことになります。
このように、弁護士は、まず、姉(Iさん)の口座に仮差押えをかけた上で、姉(Iさん)に対し、相談者(Sさん)の法定相続分2分の1の1000万円を支払うように請求をして、勝手に出金した預貯金の返還交渉を開始しました。
その結果、示談により、1000万円の支払いを合意して解決することができました。
以上のとおり、他の相続人が、遺産の預貯金を勝手に出金している場合、
などの危険があります。
そのため、スピード感のある対応や、裁判所の手続きを使った専門的な対応が必要となることがあります。
そのため、遺産の分け方の話し合いが進まない、他の相続人が勝手に預貯金を出金しているなどの問題でお困りの方は、相続問題に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。